関東出身の人が思い浮かべるくず餅と関西の葛餅は、同じ名前で呼ばれているものの全く別の和菓子になります。漢字で書くと東のくずもちは「久寿餅」、西のくずもちは「葛餅」と別の漢字が当てられています。では、この二つはどのように違うのでしょうか。
原料の違い
関西でよく食べられている葛餅は葛粉を原料としています。簡単に説明すると、葛粉に砂糖と水を入れて混ぜながら火にかけることでとろっとした透明な葛餅ができあがります。ちなみに葛粉とは、マメ科で秋の七草の一つでもあるクズの根から作られた粉のこと。クズの根が100%の上質の葛粉は「本葛」と呼ばれます。
それに対して、関東のくず餅は小麦デンプンが主な原料です。小麦デンプンは小麦を乳酸菌を加えて発酵させた食品ですが、お店によってはこのデンプンを作るのに450日かけるというところもあるほど。発酵の過程がいかに大切か分かります。そのあと工場でいくつかのプロセスを経てできた原料をお湯でといてとろみをつけ、型に流して蒸し上げてやっと葛餅ができあがります。
なぜ同じくず餅という名前が付いたのか?
原料も製法も全く異なる東と西のくず餅ですが、葛粉を原料として作られた西の葛餅に対して、東のくず餅も同じ名前で呼ばれているのはどうしてでしょうか。これには諸説があります。
よく知られている説としては、東のくず餅が作られていた地域がかつて下総国葛飾郡と呼ばれていたことから、「葛」という文字をとって葛餅にしたということです。つまり東のくず餅の名前は地名から来ているのです。ただ、西と同じ名前になって紛らわしいため、のちに「くず餅」もしくは「久寿餅」という表記に変えたということです
また別の説としては、天保の頃に久兵衛という者が、納屋に蓄えていた小麦粉が雨で濡れたため、保存目的で水にといて放置したことにさかのぼります。その放置した小麦粉水の沈殿物を加工して蒸し上げたところ、おいしいお餅ができあがったということ。それで、発明者「久兵衛」の「久」の字に、無病長寿を祈念するために「寿」の字を足したことから久寿餅と命名されたという説です。